イタリア川歩き Ep.2 / Alto Sarca
アルプス山脈・北イタリア側を流れる Fiume Sarca。
かつてフライフィッシング世界選手権の舞台にもなったアルプスの名水で、ヨーロッパの宝石・マーブルトラウトを追った真夏の一編。
北イタリア Fiueme Sarca
Alps in Italy
ミラノからおよそ3時間。
ノンストップハードボイルド運転で、北イタリア・Trentino エリアに到着した。
夏は保養地になっているようで、道中には、スポーティなチャリをモリ漕ぎする人や、小麦色の肌をさらしてファミリーが多い。
テキトーに食料を買い、3日間お世話になる B&B(モーテルみたいな宿)にチェックインを終え、さっそく川へ向かった。
今回の目的地・Fiume Sarca は、2018年のフライフィッシング世界選手権の競技場として選ばれた川の1つで、かつてはオーストリアと第1次世界大戦の分水嶺にもなったりと、ユニークな歴史をもつ。
目星をつけていた橋から望むと、悠然と佇むアルプス山脈を背景に、やや白濁した翡翠色の流れがとめどなく続いていた。
事切れ鱒と謎の魚影
TOO HOT
8/9 PM 4:00。
予想通り、昼間の炎天下はすさまじく、外気温は36℃前後まで上昇。断熱シートで窓を養生してない車内は43℃にもなった。
めげずにチェストハイウェーダーを着て数ヶ所のポイントに入ったが、なにかの稚魚を数匹見つけたのみで、魚影は確認できなかった。
1日目はフィールド全体の探索に費やし、ほとんどロッドを振らずに終了。
思案の結果、2ヶ所のポイントに絞って、朝・夕マズメの時間に勝負をかけることにした。
8/10 AM 6:00。
ポイント到着後、宿にウェーディングシューズを忘れたことに気づく。
宿へ戻る途中、日の出に照らされた山山の美しさに息を呑んだ。昨日から続いていたソワソワした気持ちが少しだけ落ち着く。
小さいミスが運んできた素晴らしい景色も楽しんでいかなければ。
気を取り直して、いざ入渓。
上流側は岩場と瀬がテンポよくつづく渓相で、下流は緩やかだが分岐・合流して複雑な流れを生み出している。
特に悩むことなくセオリーに従って、上流側へ釣り上がっていくことにした。
結果として、この釣り上がりではアタリ1つさえ得られなかった。
ミッジがぱらぱら飛び、石の下には16番くらいのニンフもいて、たまにメイフライの流下もあったのに、どんなフライを流しても反応がなかったのが悔しい。
日も上がってきたので入渓地点に戻っている途中、50クラスのニジマスが事切れていたのを見つけた。
鱒は確実にいるのに。わからん。
8/10 AM 2:00。
入渓地点に戻り、脱渓する前に下流をのぞいてみる。
10数メートルほど歩いて瀬のなかに目をやると、うごめく大量の魚影を発見!
40〜50クラスが複数グループに分かれてまとまって泳いでいる。
なかには頻繁にライズを繰り返す個体もおり、時には荒々しい Head & Tail を見せてくれた。
上流探索でたまった疲労が一気に吹っ飛び、ふたたびタックルを用意しなおす。
観察していると、目視するのが難しいくらいのサイズを捕食しているようだった。
スペインで調達した、CDCでV字ウィングを形成した18番メイフライを結ぶ。
いくつかの流れが複雑に絡む状況。流れが落ち着いた瀬尻にフライを落とし、下流に流していく。
水面下にぼんやりと揺らめく影が、フライの方に近づいてくるのが見えた。
瞬間、影はゆっくり水面を割り、はむっとフライを吸い込んだ。
ひと呼吸おいてアワせると、Hardy Ultralite 9ft #5 が確かな重量を手に伝えながら、しなやかな弧を描いた。
Fish Racist
魚レイシストけど
なんか、ファイトの途中から「あれ?」って思ったんです。
力強さもなく、重いだけのあの感じ。
豊平川でフライフィッシングを始めた時のころを思い出しました。
ぷかっと浮いてきた魚体にはトラウトらしからぬウロコがあって。
なんか、すんごい眩しいなって。
ワンチャン、でっかいグレイリングとかじゃないかなって。そう思ったんです。
でもそんなワケなく。
魚影の正体は、ヨーロッパデカウグイ(仮) 。
コイかと思ったけどヒゲがないので、おそらくウーちゃん。
今年はじめてのドライフライフィッシングがデカウグイ...。
楽しかったし、嬉しかったけど、なんだか少し悲しい。
美しいアルプスの御山と流水を前に、なんとも複雑な気持ちになりました。
こんな炎天下でドライをむさぼるなんてヨーロッパのトラウトはすげータフだなと思ったんですけど。
やっぱり、そんなことなかったなー。
しかし、これはこれでドライフライのサイトフィッシングとして成立するので面白い。
まだまだライズは止んでいない。
魚レイシスト・魚ルッキズムな自分を顧みて少しだけ恥じて、魚をリリースし、次の狙いを絞る。
水面に対して意識の高いターゲットに狙いをロックオン。
流れを見定めながらフライを流してみる。
良い感じに流れていき、浮かんできた魚影は、疑うことなくフライを吸い込む。
やはりヨーロッパデカウグイ。これもデカい。
50クラスがこんなにあっさりドライフライを食ってくるなんて。
結局、今回のイタリア遠征は、残りの日程もこんな調子だった。
朝早くから開拓へ行くも、良さげなポイントでは悉く撃沈。アタリのひとつもは得られなかった。
その慰めにヨーロッパデカウグイと戯れる2日間となったのだった。
Thanks, Trentino
さよならまたいつか
素晴らしい山と川に囲まれながら、アルプスでのサイトフィッシング。
良い響きですよね。実際、本当に良い時間でした。
でも、やっぱり心の底には、鱒族に対する渇望が渦巻いてて。
ネイティブトラウトと戯れたい。
ただそれだけなのに。こんなにも難しいとは。
そんな邪念が祟ったのか、最終日の夜には食中毒になってしまった。
原因はおそらく川の水だろう。浄水フィルター通して飲んだのに。
吐き気と熱で朦朧とする意識のなか、この旅の葛藤を反芻する。
なんでこんなツラいハメに遭って、釣れもしない旅を続けているんだろう。
ああ、もういっそ北海道に帰りたい。
あの場所に行けば、美しくて強いトラウトと遊べるのに。
3回ほど盛大に吐いて、ようやく回復の兆しが見えてきた。
まだ旅は終わってない。
もっとヨーロッパで遊ばないと。
必死に自己暗示をかけて、チェックアウトぎりぎりまで休み、自力で運転して空港に向かった。
いま思えば、これだけタフな独り旅も、これまで体験がなかったので良い思い出になったと思う。
そして、懲りずに次のフィッシングトリップの計画をしている。
次こそは、必ず。
釣れなくても、食中毒になっても、一生モノの旅はこれからも続く。