スロベニア川歩き Ep.1 / Soča
アルプス山脈の南東、多様な自然を色濃く残す美国・スロベニア。
ヨーロッパでも屈指の美しさを誇る、エメラルドの輝きを纏った Soča River を探る旅に出た。
流れる宝石 Soča River
Emerald Brilliance
1ヶ月ほど生活したセルビア・ベオグラードを離れ、バルカン半島の北端・スロベニアに着いた。
予報通りの雨模様で、気温も18℃ほどと少し冷えている。
これまでの教訓を活かして予約したレンタカーをスムーズに借り、目的地である Soča River(ソチャ川)へ車を走らせた。
ドライブしながら景色に目をやると、ふと北海道を思い出す。
色濃く残る森林と点在する山々、牧草地と風に乗ってくる家畜臭。
本当に日本の田舎道、それも北海道によく似ている。
時折見かける放牧されたウシやヒツジにも強いノスタルジーを感じてしまう。
ここには明確な四季も存在するらしく、あまり知られていないが経済的な素地や独立の歴史などからも「南欧の日本」と評価されることもあるらしい。
妙な親近感と懐かしさに包まれながら心地よくドライブを続け、途中のスーパーで1週間分の食料を買い込み、足かけ3時間ほどで滞在先の Airbnb に到着した。
翌日、朝からポイントの下見へ出かけた。
街のなかに見晴らしの良い橋があったので、車を停めて駆け寄ってみる。
大小さまざまな山が立ち並び、その向こうから続いてくる限りなく透明に近いエメラルドの流れ。
本当にこんなに美しい川があるのか。
圧倒される意識の中、この景色に至ることができた幸運を噛み締める。
この欧州フィッシングトリップの最終目的地であり、最も切望した場所が目の前にあった。
翡翠のなかの影
exploring
初日と2日目はリサーチに時間を充てる計画でいた。
というのも、ソチャ川周辺だけで、あらかじめマーキングしていたポイントは合計で30ヶ所ほどあった。
土地勘はないし、ガイドも雇わないし、何よりソチャ川は1日あたりの fishing license fee が€70 というバカげた価格設定なので、釣りを成立させるためには足で稼ぐしかない。
ヨーロッパのバカンスシーズン終盤の9月頭を狙ってきたものの、上流のソチャ渓谷あたりには海水浴をする人が多くみられた。
スペインでもみたけど、ヨーロッパの人たちは Cliff Dive で川へ飛び込むのがホント好きらしい。イカれてるなぁ。
ネットやSNSで噂のスポットは観光客が多いため、入渓まで時間はかかるけど、ほとんど人が入らなそうなスポットを探ることにした。
結果、これが功を奏した。
最終的に3ヶ所ほどにポイントを絞り、そのうち1つではガイディング中と思われるツーマンセルを見かけ、また違う地点のプールでは目測 60 cm に迫るレインボーも見つけた。
蛇足で興味深かったのは、ラフティングが近づいてきても魚影は意外と散らないということだった。
ニセコで釣りをする時はラフティングが釣りの邪魔をすると思ってたけど、あまり関係なかったんですね。すべては観察不足・技術不足という気づき。
3日目。
震える指をグッと抑えてポチったクソ高い fishing license を携え、エメラルドの流れに足を入れた。
Fish Racist
魚レイシストけど
なんか、ファイトの途中から「あれ?」って思ったんです。
力強さもなく、重いだけのあの感じ。
豊平川でフライフィッシングを始めた時のころを思い出しました。
ぷかっと浮いてきた魚体にはトラウトらしからぬウロコがあって。
なんか、すんごい眩しいなって。
ワンチャン、でっかいグレイリングとかじゃないかなって。そう思ったんです。
でもそんなワケなく。
魚影の正体は、ヨーロッパデカウグイ(仮) 。
コイかと思ったけどヒゲがないので、おそらくウーちゃん。
今年はじめてのドライフライフィッシングがデカウグイ...。
楽しかったし、嬉しかったけど、なんだか少し悲しい。
美しいアルプスの御山と流水を前に、なんとも複雑な気持ちになりました。
こんな炎天下でドライをむさぼるなんてヨーロッパのトラウトはすげータフだなと思ったんですけど。
やっぱり、そんなことなかったなー。
しかし、これはこれでドライフライのサイトフィッシングとして成立するので面白い。
まだまだライズは止んでいない。
魚レイシスト・魚ルッキズムな自分を顧みて少しだけ恥じて、魚をリリースし、次の狙いを絞る。
水面に対して意識の高いターゲットに狙いをロックオン。
流れを見定めながらフライを流してみる。
良い感じに流れていき、浮かんできた魚影は、疑うことなくフライを吸い込む。
やはりヨーロッパデカウグイ。これもデカい。
50クラスがこんなにあっさりドライフライを食ってくるなんて。
結局、今回のイタリア遠征は、残りの日程もこんな調子だった。
朝早くから開拓へ行くも、良さげなポイントでは悉く撃沈。アタリのひとつもは得られなかった。
その慰めにヨーロッパデカウグイと戯れる2日間となったのだった。
Thanks, Trentino
さよならまたいつか
素晴らしい山と川に囲まれながら、アルプスでのサイトフィッシング。
良い響きですよね。実際、本当に良い時間でした。
でも、やっぱり心の底には、鱒族に対する渇望が渦巻いてて。
ネイティブトラウトと戯れたい。
ただそれだけなのに。こんなにも難しいとは。
そんな邪念が祟ったのか、最終日の夜には食中毒になってしまった。
原因はおそらく川の水だろう。浄水フィルター通して飲んだのに。
吐き気と熱で朦朧とする意識のなか、この旅の葛藤を反芻する。
なんでこんなツラいハメに遭って、釣れもしない旅を続けているんだろう。
ああ、もういっそ北海道に帰りたい。
あの場所に行けば、美しくて強いトラウトと遊べるのに。
3回ほど盛大に吐いて、ようやく回復の兆しが見えてきた。
まだ旅は終わってない。
もっとヨーロッパで遊ばないと。
必死に自己暗示をかけて、チェックアウトぎりぎりまで休み、自力で運転して空港に向かった。
いま思えば、これだけタフな独り旅も、これまで体験がなかったので良い思い出になったと思う。
そして、懲りずに次のフィッシングトリップの計画をしている。
次こそは、必ず。
釣れなくても、食中毒になっても、一生モノの旅はこれからも続く。