Mosir Artworks(モシリ・アートワークス)

スペイン川歩き Ep.2 / Perdigon

更新:2024/08/21

日本からの旅路で抱いてきた甘い期待はことごとく打ち砕かれるも、偶然の出会いにより、この土地のフライフィッシングやトラウトとの邂逅につながった。

一寸先の光、 The Fly Shop Hookuna

Serendipity

Riu Ter 初回開拓から、3日目の朝。

宿のカーテンを開けると、ドロぉ〜とした曇り空が世界を覆い尽くしていた。

眠気・疲労・雨曇・不釣....。

いろんなことが重なって集中力も途切れ気味だが、タイムリミットまであと2日ある。

増水明けのワンチャンに備えつつ、Girona から30分ほどの隣町 Angles に移動した。

Angles は、Riu Ter の上流域に沿った小さな町で、どこか倶知安に似たような雰囲気がある。

移動先の宿で支度を整え、あらかじめマーキングしていたポイントに向かう途中。

突然。

ブラウントラウトと川の風景画を焼き込んだ、壮大なアートを讃えた建物が目に入ってきた。

体中の細胞が一気に目覚めるような稲妻が走る。ここは一体なんぞ!

調べてみると、ここは Hookuna というフライショップらしい。

店の佇まいから見るに、相当な大きさのショップだとわかる。

運命めいたものを感じ、車を止めて、店の入り口に近づいてみると、残念ながらこの日はすでにクローズ。

運命は明日におあずけとなった。

川も濁りが入っており、体力温存のためにポイントの下見にとどめて、この日は終了。

Perdigon

La Ninfa de Espana

4日目。

Hookuna を再び訪れると、恰幅のいい男がお店の角で PC を見つめている。

Google Map に記載の開店時間はとっくに過ぎているが、店内はまだ暗く、お店は開いていないようだ。

チラぁ〜っと店内を覗いていると、その様子に気づいた男が話しかけきた。


「ん、中を見たいのかい?」


即座にイエスと答えると、快く店内に入れてもらえた。どうやら、彼はここのオーナーらしい。


入店してすぐの1階には、Sage や Orvis などの有名どころに加え、日本ではほとんど見ないが Guideline というブランドのロッドがずらっと並ぶ。

2/3 Weight の 10.6 ft / 11ft など、ユーロニンフ専用のロッドも多い。


薄暗いショーケースには Abel などハイエンドなリールも並んでおり、窓から差し込む陽光に照らされ、煌びやかな雰囲気を漂わせていた。

Simms や Patagonia などお馴染みのアパレル・ギアが並ぶなか、Gear Keeperなど欧米で広く展開されている小物アイテムの扱いも豊富である。


2階にも広々としたスペースが設けられており、マテリアルやウェーダー類が、これでもかというくらい並んでいる。

川から歩いて3分のところにこんな場所を作ってしまうなんて。

フライフィッシャードリームすぎる。



そして、肝心のフライ。

多段のクリアケースにはフライの名前がそれぞれ書き添えられており、テキトーにカラムををパッと引いてみる。

そこにはキャンディのようなフライたちがコロコロと入っており、Perdigon Gasolina #16 という文字。

ユーロニンフについてほとんど知識も経験もないが、ペルディゴンというスペイン生まれのニンフがあることをなんとなく知っていた。(多分インスタで)

そして本物を見たのはこれが初めてだった。


ゴリっとした鈍色のタングステンのヘッド。レジンコーティングで三角錐に整えられたシェイプから発せられる構造色のような複雑な輝き。スペインらしいコック・デ・レオンのテールも添えられている。


これまで使ってきたニンフに比べると、かなり風変わりで生命感に欠けるが、妖しい艶めきに不思議な魅力があるような。



ほかにも様々なフライがあり、手の向くままに見漁っていると、先ほどのオーナーが近づいてきたので質問をしてみた。


「Riu Ter で有効なパターンってどれですか?」

「全部だよ」

愚問を投げかけた僕に対し、オーナーはそう戯けたあと、この時期の Riu Ter のフライについて教えてくれた。


この時期の Riu Ter は、#16 ~ #20 のニンフを中心に、半沈パターンの羽付アント、赤いボディとCDCのウィングを添えたパターン、ウィングをV字にしたフライも効果的という。

何より、CDC やコック・デ・レオンのゆらめきが重要という大きなヒントもいただけた。

加えて、大物を狙うならベストシーズンは12 ~ 1月ごろらしく、積雪の存在しないこの地域のバイオリズムが少しずつわかってきた。


ひとしきり話を聞いてみたところで、有効なパターンをオーナーに見繕ってもらうことにした。

「まずは、今のフライボックスを見せて。そこから足りないものを組み立てよう。」

というので、有りものをすべて見せたところ。

「Oh...bigger...bigger...bigger...OK..you need all flies.」と、オーナー氏。


はい。やっぱりデカすぎですよね。

おとといまでの不釣の大きな原因が当たっていたようなので、ひとまず安心。


オーナーは、真っ先にペルディゴンを3本ほどチョイスした。

やっぱりこれ使うんだなーと、まだ少し疑心暗鬼な私を他所目に、その他8本ほどのフライを選んでくれた。締めて 35ユーロほどのお買い物。

日本でタイイングをサボってきたツケの精算、もとい、本場ユーロニンフの授業料と考え、ためらうことなくカードを切った。

その後、オーナーさんが運営するロッジの話も聞かせてもらったりして、英語でもっとフライ談義できるようになりたいなーという渇望を胸に、ふたたび川へ向かう。

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This game is Local Things

川に着き、用意を整える。もちろん、持っていくフライは Hookuna で購入したものだけ。

濁りのとれた川は良いコンディション。入渓地点の対岸には、40cm前後の魚影もうごめいているのも見えた。昨日、下見した時よりも魚はついてそうだ。

ゆったりと流れる瀬に対し、アップストリームに投げ、テンションを保ったまま下流まで流していく。なんちゃってユーロニンフスタイルで流していくと、ぐぅっ!とアタリを感じる。

ロッドを伝って感じる生命感。思わず口元が緩む。サイズの割によく走る、1尺に届かないブラウンが元気よく遊んでくれた。

嗚呼、楽しい。それ以上に、面白い。本当にこんなフライで釣れてしまうのだから。

この土地のアングラーたちが紡いできた智慧を借りて、この川で生まれ育つ魚たちと遊ぶ。

まさしくローカルゲームであり、フライフィッシングという営みがもたらす喜びの本質が、いま、この瞬間に詰まっているような気がした。

しばらくの間、カタルシスを噛み締め、飽きるまでロッドを振り続けた。

Hasta la vista, Riu Ter

To be continued...

はじめての海外釣行。

小さいながらも、ようやく魚たちと遊んでもらうことができたこの日。

奇しくも、自分にとって 31回目の誕生日だった。


北海道の通い慣れた川に甘えまくり、ナメた釣りをしてた自分にとって、Riu Ter での小さい絶望の連続と、Fly Shop Hookuna での時間は、本当に良い目覚ましになった。

新しいスタート地点に立てたこの感覚は、何物にも替え難く、幸福なことだ。


ペルディゴン、次はどんな景色を見せてくれるのだろうか。


一生モノの経験は、これからもまだまだ続いていく。